龍樹&拓斗シリーズ
優しい毒
7
翌日は卒業式前日。
学校に行ったら、予行演習なんかやって、授業無しだった。かったるいから途中でフケた。
俺はその足で横浜へ出た。なんだかんだで、龍樹さんへのプレゼント、まだだったんだ。
何がいいかは決まってなかった。感謝の気持ちを表せて、尚かつあんまり期待させないもの。
また龍樹さんに縋るような目で見据えられるの、避けたいからな。
うーん………………。
ふらふらと東口に出た。大きなデパートと、ファッションビルと地下街。
ふと茶店の前を通りがかって蝋細工のケーキが目に入った。
「ケーキか……」
俺の誕生日の時には、龍樹さんが滅茶苦茶旨いケーキを作ってくれた。
多分、自分の誕生日に自分で作るってのはないだろう。
龍樹さんて、何が好きかな。そんなことも俺は知らない。甘党か、辛党か。酒はどうか……。
「バースデイケーキは特別だよな」
デパートの食料品コーナーに足を向けかけて、はたと立ち止まった。
明日買った方がいいか。生ものだし。卒業式の帰りにまたここに回ればいい。龍樹さん、喜んでくれるかな……。ケーキと何か、あればいいけど。
考え込みながら収穫無しで電車に乗った。
俺の家は駅から徒歩三分。『El Loco』のある商店街とは反対方向に歩くんだ。
店は今日も休みだけど、もしかしたら龍樹さんが帰ってきてるかもしれないと思いついた。
やっぱり、あの封筒の中身が知りたい。
テコテコ店に向かって歩いていたら、尻に衝撃が走った。ガンッて、何か固いものにはたかれたんだ。前のめりになって電柱におでこがぶつかった。星が散った。
「ったーっ」
しゃがみ込んで頭を抱えてたら、腕を持ち上げられた。
「ごめんなさい、大丈夫?」
聞き覚えおおありの声。葉山さんだ。
どうやら、俺の尻を叩いたのは葉山さんの車のドアだったらしい。
「病院、行った方がいいかしら。とにかく乗って!」
「あ……いえ、大丈夫ですから」
病院なんか行ってたら、また中身を知るのが後回しになっちゃう。
でも、葉山さんは強引だった。星に目の前をふさがれた俺はよろよろしてて、そのまま車の中に押し込まれてしまった。
本気で抵抗すれば負ける訳無いけど、まあ、結局のところ俺は彼女を信用してたんだよね。
走り出した車の中で、なんか変だなって思えてきた。車のドアで歩いてる人間はたくって……この国産車じゃ変なんだよ。
彼女が助手席にいたんなら運転は誰が? 誰もいないよな。
それに、車に乗り込んだ途端に違和感を感じたんだ。何だろうって考え続けて、はたと気づいた。この間の甘い匂いが消えていたんだ。綺麗さっぱりと。その代わり漂うのは柑橘系の匂い。
「あの……香水、変えたんですか?」
言った途端にガツンとやられた。
痛みに意識を取り込まれていく間も俺は悔やんでた。
ああ、俺って……本当に間抜けかも……。