眸はいつもブルー・第7回

「ハチの袋、かたーい。ほら、パツパツぅ」
 俺を口に含んだまま睾丸を握りしめ、そんなことを言う。
「本当に溜まってたんだねぇ」
「……るさいっ……」
 俺を頬張って、見上げてきた瞳が微笑んだ。
 天使なくせに、なんて淫らなんだ。
 こいつ……マジ悪魔だ。
 いっそのこと、全てを投げ出して酔ってしまいたかった。それくらい、蓮の魔力は強かった。
 だが……
「よせ、蓮。これ以上続けるなら、出ていってもらう」
 無意識に威嚇を乗せた声を出していた。蓮が微かに肩をそびやかす。
 やがてフリーズ。
「やめろ、蓮。はやく」
 俺の再度の要求に、渋々蓮は俺を自由にした。
 屹立したままの俺のペニスは蓮の唾液と俺の先走りでヌメヌメと光っている。
「ハチ……なんで?」
 泣きそうな顔で俺を見つめる蓮を、押しのけた。
 トイレに向かう。
 抜き差しならない状態の熱を冷ますため。結局俺は自分で扱いて、蓮の口ではなく、トイレに吐精した。
「ハチの意地っ張り!」
 背後でかんしゃくを起こしたように叫ぶ声は、ただのガキ。
 そう。なんだかんだ言ってもガキなんだ。どんなに手管があっても。慣れていても。
 ガキの癖に手慣れた愛撫をする奴に、俺は少し怒りを感じていた。
 だからこそ、奴の望む形にはならないと決めたんだった。
 トイレから戻ってくると、蓮がぶすくれた顔を背けて見せた。
「人を道具扱いするようなガキのフェラでイッても、全然うれしかないんだよ」
 冷蔵庫からビールを出しながら声をかけた。
 その場でプルタブを弾き、一気に煽った。
 冷たい喉越しが気分を収めてくれる。
「……お前、自分が誘えば誰でも従うと思ってるだろ?」
 蓮はハッと振り返り、頭を振った。
 あわてた様子は、多分肯定ぶくみ。
 いや、無自覚だったのかな? 
「ハチの意地悪ッ!」
「意地悪で結構。結構毛だらけ猫灰だらけ〜だ!」
 べーっと舌を出して見せた。
 ぶっと吹いた蓮は呆れ顔になる。
「ハチは寅さんかいっ」
 おお、知ってるのか、こいつ。
「別に寅さんの台詞って訳じゃないがな。知ってるってだけでもマニアックだな」
「マニアックでもないよ。日本の映画じゃ、寅さんシリーズは海外で善戦してる方だよ」
 ああそうだ。こいつ、余所で育ったんだっけな。
「……お前って、どこにいた人?」
「は?」
「スキップしたって言ってたじゃん。どこの国?」
「僕の過去が気になる?」
 フフンと俺をのぞき込んでくる表情はいたずらっ子のようだ。
 なんだかんだ言ってもガキだよな。
「ごくごく単純な好奇心からの質問だよ」
 間違っても個人的興味だなんて言えないな。
 蓮は、俺をからかってるだけなのか、それとも……?
 もしも、誘って俺が墜ちる過程を楽しみたいのなら人が悪いことこの上ない。
「15になるまで、どんな育ち方してきたのかって言う保護者的興味もあるな。一応、お前は未成年で、俺んちの居候だし。大人の責任て奴のための予備知識だな」
 蓮は真顔になって、応えた。
「父さんはイタリアにいるよ。生まれたのもイタリア。学校はイギリス」
「ふうん……。お前って、ハーフ?」
 灰緑色の瞳は日本人の血筋じゃないからな。これも単純な興味だった。
「クォーターだよ。母さんが日本人とイタリア人のハーフで。父さんはシシリアンだから」
「日本語うまいな。いつから日本にいるんだ?」
「ハチと会う一週間くらい前から。日本語は、子供の頃から母さんが教えてくれてたし。多分、日本語が一番多彩で難しい言語だろうからって」
「あの家にお前の母親っていたの?」
 そんな雰囲気じゃなかったけど……。
「いないよ。7年前に死んだから」
 さらりと言われて、こっちが恐縮してしまう。
「あ、わりぃ」
 蓮は軽く肩をすくめた。
「謝る事じゃないでしょ? ま、そういう気遣い、嫌いじゃないけどね」
 大人と子供の同居。そんな表現が奴にはふさわしい気がした。
「何故日本に?」
「母親の故郷だから。見ておくべきだと思ってね」
 「今しかないし」と、続けた蓮の顔は神妙だった。 



  


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