眸はいつもブルー・第6回
「高田……? うわー、本当にやっちゃったの?」
蓮は目を見張って俺を見上げてきた。
帰宅後、俺の写真の末路を蓮に話した結果だ。
高田翔と芝山代議士のかけおちの、直接的な原因は、はっきり写ったキスシーンのすっぱ抜き。
蓮は大まじめで俺の話を聞き、本当にびっくりしたようだった。
「やっちゃったって……あの写真、高田が持っていったんだよな? カメラから無事取り出せたとして、雑誌にリーク出来るのあいつしか……」
「うーん。どこに現像頼んだかにもよるよね? まあ、僕は高田が自分でやったと思うけど」
考え深げに呟いた蓮の表情は、結構理知的で天使の中でも上級天使かも……なんて思わせた。
俺の疑問は天使によって肯定されてる。
「やっぱり……かな?」
そうかなと思いつつ、あのときの高田の目が思い出される。
本当に、本気で芝山代議士を守りたいと。絶対フィルムを取り返すぞと言う瞳だった。
「でも、何か納得できねぇ。どうせリークするなら、俺たちを追いかけなくてもよかったのに」
「自分でするならタイミングはかれるじゃない?……それとも、あの事件があったからそういう気になったのかもよ?」
したり顔で言う蓮を生意気だと小突けば。
何すんだと睨みながらもフッと柔らかく笑った。
ガキのくせに、なんだか大人な顔。生意気生意気、生意気〜〜!
「お前、あいつらとは親しいのか?」
蓮は何言ってんの? という顔で頭を振った。
「あそこで初めて会ったんだよ? 高田翔は勿論知ってたけど、あっちは僕のこと知らないはずだったし」
そうかな? それにしては……
「高田のこと、親しい奴みたいな言い方してたじゃないか」
「そんなことないよ。まあ、秘密を共有したことになるから……かな?あそこで知り合いになったんだから。だいたい、ハチのこと運んでくれたのだって高田だよ。自分の車で、ボクらを送ってくれたんだもん」
「ふーん……」
しかし、俺は知ってる。蓮は柳沢の爺に口止めされていた。あの時。何かを言いかけて、やめたじゃないか。
「ハチ〜〜〜疑い深そうな目で見ないでよ。ハチらしくない」
俺はもう一度蓮を小突いた。ふわりと巻き毛が柔らかく揺れて、睨み付けてきた翡翠の瞳は奇妙な吸引力を持っていた。
まじまじと奴の瞳にはまりこむように見つめ、ハッとする。
「ハチ?」
キョトンと俺を見上げる蓮の顔は、何だかこちらを赤面させた。
クスッと笑ったその声が、ほくそ笑みを含んでいたようでイヤな感じ。
そのとき、カルロの瞳の笑みを思い出した。
「そうだ。カルロ!」
「へ?」
「あいつ、プリペイドカード置いてったぞ」
「なにそれ?」
俺は懐からパイの油にまみれたカードを取り出した。
「何、カルロの分のパイ、もって帰ってきたの? せこーい」
……この野郎……
「もったいないだろう? 手つかずだったんだ。食い物粗末にするのは金持ちの悪い癖だ」
「……失礼だなっ。粗末になんてしないぞ。だいたい、ハチなら持っていきそうだったから、カード仕込んで残していったんだろう? ハチが持って行かなくても、僕が片づけるだろうし」
「……そうなのか?」
「そうだよっ」
だって……と、ふくれっ面で自分の財布をとりだした。
プラチナカードなど、全てのクレジットカードが姿を消していた。
「柳沢に取りに来て貰ったんだ。持ってると頼りたくなるから」
ちょっと照れて、つぶやくように言った蓮の表情は大まじめだった。
「……えらい!」
俺は蓮の頭を抱え込むとぐりぐりと頭を撫でた。
「なっ、ハチッ、やめてよっ」
じたばたする蓮の、巻き毛の感触は柔らかで。頬は吸い付くようなしっとりした感触。
柔らかくて、暖かくて……やはり、蓮は天使に近い……なんて思った。
ボンヤリそのぬくもりを味わっていたら、蓮がグイッと俺の腕を退けた。
「もうっ。髪の毛ぐしゃぐしゃ……」
手ぐしで整えながら、バラ色の唇をとがらせる。
俺は、手のひらから消えていくぬくもりが、目に見える気がしてじっと手を見つめた。
「なに?」
不思議そうにのぞき込んできた翡翠は、明るい輝きなのに。
「お前……、本当に人間?」
なんて、いきなり口に出してた自分に驚く。
はあ?って露骨に呆れた顔で俺を見つめる蓮は、年相応な幼い表情だったのに。
「あー、いや、何か、お前って尋常じゃない綺麗さだから……」
なんて言い訳をしたら。
いきなり蓮の口元だけがくっと歪められて、やがて俺の視界は影に遮られた。
柔らかなぬくもりが唇に落とされる。
そっと押し当てられ、やがて、だんだん圧力が強くなり、もっと湿った熱さが歯列を割ろうと差し込まれてきた。唇をついばみながら、何度も何度もトライしてくる執拗さに、次第に隙間を作る歯列の奥の、俺の舌を探し当てると、それは根元をえぐる様に何度も誘い出した。
なま暖かく、くすぐる様な微妙な圧力が俺の口の中を暴れ回って。
蓮のキスだという認識が、少し遅れてやってきたとき。
「や、やめろ……」
俺は奴を押しのけようとしながらも、蓮の甘い唾液を飲み込んでいた。
息継ぎの間に奴を見据える。
「いきなり……なんなんだ?」
瞳を微笑ませただけの蓮は、それに答えず、また唇を重ねてきた。頬に添えられていた手は、容赦の無い力で俺の頭を抑える様にからみついた。
更に、耳元から首筋にかけて這わされた指先は俺の性感帯を的確に刺激して、俺の抵抗を抑えようとする。
が、ガキのくせに……この手管は何だ?
「お、おい……やめ……」
息継ぎの間に何とかやめさせようと口にした言葉は、蓮の唇に吸い込まれてしまう。
天使の口づけは、俺の中の認識力を少しずつ奪い、俺は奴を引きはがすことを諦めた。
いや、見栄を張るのはよそう。
俺は、夢中になってしまったのだ。奴との口づけに。
蓮の唇も舌も、極上の味だった。
俺だけじゃない。俺だけが快楽に弱い訳じゃないと思う。
俺が応える様になると、蓮はゆっくり角度を変えながら俺の唇を味わった。
小休止とばかりに、俺の膝の上に乗り、唇を耳元に這わせた。
ゾクリと背筋を走ったのは不快感ではない。
「ハチ……ハチ……」
ついばむ唇から俺の名を呼び、蓮の手が少しずつ移動して……。
「!!!」
俺の股間に差し込まれた手が、いきなりジーンズ越しにタマを握り取った。
やんわり揉みしだかれて、力が抜ける。
もはや俺は、天使のなすがままだった。
そっとジッパーをおろして引き出された俺の逸物は、それが男とのキスだったのにもかかわらず、臨戦態勢に入っており、蓮はゆっくり形をなぞると、にっこりほほえみかけた。
恥ずかしさに目を背けた俺の耳には、またも含み笑いを含んだクスリという音が聞こえて。
いきなり湿った熱さに包まれた刺激に体がギクリと跳ね上がる。
「ハチ……溜まってるんでしょ? 僕が出してあげるね」
「いっいいっ」
「……まだ、序の口だよ?」
蓮が俺のを口に含んだまま見上げてきて言った。
「だっだから、出してくれなくていいってんだよ」
「遠慮しないでよ。苦しいでしょ。こんなに大きくして。ハチのここ、凄いドキドキしてるよ?」
「こ、このエロガキャ! ……やめ……ろっ……」
口腔内に異常に分泌された唾液を飲み込みながら、蓮の頭を押しのけようとした。
素材提供:トリスの市場