七夕 by冴木瑠荏さん
「ひゃぁ〜暑いや」
僕は、余りの暑さにそんな言葉しか出てこない。
「クーラーをいれてきます」
「うん、よろしく」
僕より先に玄関に入り、光一郎さんに「ただいま」という挨拶を交わし
しゃがんでくれた圭にキスを送る。
こうした事に、すでになれてしまった僕は平然とした顔ですまし、
靴を脱いだ。
久々に訪れる我が家は、確かに僕達の家でもありそうじゃない気もした。
ふと、目にカレンダーが飛び込んでくる。
そのカレンダーは日めくりで、僕達が訪れるまで1枚ずつ綺麗にめくり取られていた。
「あ…七夕か…」
1年に1度だけ、出会う事の許される織姫と彦星。
そんな悲しい恋はしたくないと思う。
ずっと傍にいて、支えてくれてこうやって感じるぬくもりを僕は手放したくない。
だから、僕を呼ぶ声についうれしくなってしまう。
「悠季、部屋に入ってください。冷気が逃げてしまいます」
いつも、僕を気遣ってくれるやさしい君。
僕は君と居ることが出来て、幸せだ…
+---七夕の後日談
「ねぇ、今日は何の日か知ってる?」
玄関で靴を脱ぐと、僕の掛け声に反応してすぐに部屋にはいってきた。
「珈琲を持ってきましょう」
「あ、うん、ありがとう」
悠季はなにかいいたげな顔をしながら、ネクタイを解くと、ふぅとため息をついた。
「お待ちどうさま、さぁ、どうぞ」
つくりおきのあったアイス珈琲を悠季に差し出し、悠季のくつろぐソファの隣に
腰を下ろした。
「今日は七夕なんだよ。年に一度だけあう事を許された日」
どうりで、今日の悠季は様子が変だと思った。
ゲネプロをこなし、演奏をしている間も、悠季の表情は柔らかく人恋しいような
顔をしていた。
「今日の演奏は最高のものでしたよ」
「僕の演奏は、君を想いながら演奏したんだけど…」
珈琲を持ちながら悠季がうつむいてしまった。
どうやら、照れているらしい。
「年に一度だけ許された者達はかわいそうですね」
「…なんで?」
俯いたまま、耳まで火照ったまま悠季が尋ねてくる。
「そうでしょう?僕には年に1度だけ君と出会う事を許されたものなどとしたら
僕は君を追っかけて会いに行ってしまいそうです」
「…何言ってるんだよ!もうっ!」
嬉しそうな声がやがて、ぽつりと言葉をつげた。
「…でも、もしかしたら僕も同じかな。
君に出会う事が年に1度だけなんていったら、ずっと会っていたいって
君を追っかけていそう」
「…では、気持ちは一緒と言うことで、今日のご予定は?」
「君と一緒に居たい気分だよ。
どこへ行っても、君のことを忘れてないよ。
いつだって、君と一緒にいたいんだから」
「それをそのままそっくり君にお返ししましょう。
では、これからゆっくり過ごすためにお風呂などいかがです?」
「んー、そうしようかな?連れて行って、圭」
「かしこまりました」
甘えてきた悠季を抱きかかえ、僕等は自分達が欲したままに体を貪りあった。
「七夕じゃなくとも、こうやって君を感じる事が出来て嬉しいよ」
悠季が嬉しそうに言葉を紡ぎ、僕の胸で眠りにつく。
僕はそんな悠季を見ながら、思った。
──幸せだと。
…オチがいまいちでした。(爆)
圭が年に一度なら悠季は……てのは掲示板で書いたことだっけ^^;
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