『内緒話』 byとうみょうさん
圭もぼくもオフのある日。
二人とも午後の休憩をいれたときに、ぼくはそれを見つけた。
水色の空に満月よりすこし欠けた月が浮かんでいたんだ。
「何に見とれているんです?」
ぼくを後ろから彼が抱きしめてきて。
内緒にしたいけど、君には隠し事は出来ないから話した。
高校生のころ、バイオリンを習いにバスで通ってたって話したろ。
そのころ、家の農業を継ぐか音大に進学するかでとても悩んでて。
ある晩帰り道、雪の下の石にけつまづいて転んだんだ。もうっ、笑うなよ。
スキーも外れてさ。道の真中で空を見上げたら、あんな月が浮かんでたんだ。
ただ静かな光だった、、、
ふと物音がして振り返ったら、野兎が雪の上を走っていった。
そのまっすぐな足跡。
そのとき思ったんだ、ぼくにもぼくの道があるんだと。
「ならばあの月はきみの守護神ですね。」
ここちよいバリトンが耳をかすめた。
うん、とぼくはうなづいて。
でも今はきみなんだけどねと心の中で呟いた。
ないしょなんだ。