求める者 by冴木瑠荏さん
ローマへきて、二人での逢瀬も少なくなってきてしまっている
最近、悠季が電話をくれた。
《ねぇ、明日ってあいてる?》
突然の申し入れだった。
「明日ですか、えぇ、午前中は予定が入っていますが…」
《午後からなら平気?なら、会わないかい?》
君のほうから会いたいなど、珍しいことだったが
電話越しにきこえてくる君の声は
せっぱつまった声でもなく、嬉しそうな感じの声だ。
「何かあったんですか?」
《え、ううん、何もない。
練習もやっと一段落して、自分のペースがやっと保てた所だよ。
僕は練習の鬼になってしまっていて、君を忘れたことなど
この指輪に誓ってなかったのに、夢中になると忘れちゃうんだ。
それで、明日は先生が夫婦でおでかけになられて、
カルロ君もいないっていうから、なら僕も出かけてきます、
って話をつけたんだよ。いいだろ…君に会いたい…》
「いいですよ、僕はそういってもらえる君を生涯の恋人にできて幸せですね」
《また、そういうことを!》
「明日は、アパートで待っててください。
午前中は用事がありまして、打ち合わせにでかけていますので」
《うん…ちなみに、明日は泊まれるから》
「…悠季っ!」
《じゃ、明日、午後にそっちにいくから、愛してるよ、圭》
「僕も愛していますよ、悠季…」
電話越しでは感じれないキスを交わし、受話器を置いた。
──翌日。
午前中で打ち合わせは終わると悠季にはいったものの、
その打ち合わせは午後までにおすほどの打ち合わせとなってしまい、
ローマの二人のアパートへ辿りついたのは、3時も過ぎた頃だった。
「これでは、申し訳ない気分ですね…」
いくら、泊まれるとはいえ、君の姿を久々に見るチャンスだったんです。
それなのに、こんなに予定がおしてしまって…。
たいてい、僕が後からこの部屋へ入ると悠季は迎え入れるように
バイオリンを演奏していて僕の耳を楽しませてくれる。
それから、パタパタとスリッパの音を響かせ僕に近づき、
その唇を僕の支配下へと誘ってくれる。
今日も同じように僕の耳を楽しませ、唇を堪能できるとおもっていたところ
アパートのドアを開いた所で違っていた。
「悠季…?」
眠ってしまっているのでしょうか。
バイオリンの音色は全くといっていいほど、きこえず人のいる気配も無い。
だが、しかし、悠季がいつもいる部屋に行くにつれて聞こえてきたものは
幾分違う悠季の声だった──。
「んっ…んっ…!あ…あぁ…」
アトリエに鎮座された小さなソファに座りこむようにして、悠季が声を上げている。
まさか、具合でも悪いのかと思い慌てて近寄った所でそれは違うものだと感じた。
「け…けいっ!んっ!…は、くっ…」
僕を呼ぶ声。そして、淫らに感じる君の姿。
誰を思い誰を求めているのだろう、その求めている者がここにいるというのに…。
「んっ…んーーっ!っはぁ……」
息をひとつ吐いたところで、アトリエに続くドアを開いた。
ぱっとふりむく君の姿はシャツ1枚をきただけという姿で驚かされた。
「…け、圭っ!…き、君…い。いつから……」
そんな淫らな姿を僕に見せつけておいて、どうするつもりだったんですか!?
すかさず歩み寄ると僕は先ほどまで喘いでいた唇を封じた。
「んっ…は、はぁ………」
僕のキスで快楽から戻された悠季が、みるみるうちに顔を赤らめていく。
「とても素敵な光景でしたよ。そんなに、僕が欲しかったのですか」
ずばり言った一言に、その赤らみはヒートアップしてしまい、
顔がぽすんと肩に落ちた。
「だ…だって、君を待て無かった。昨日から僕の様子は変だった。
電話して、君の声を聞いた途端、体は君を欲しがってて…」
「素直に言えば良かったんです。辛かったのでしょう?
ここはすでにこんななのに…」
先ほどの行為で育て上げられてしまったところに手を入れると
悠季は鼻から息をこぼした。
しっとりと湿ったところからは、甘い蜜が流れだしている。
「悠季…」
「んっ…やだ…やだっ!」
言葉は嫌だと告げているものの、体はもっととせがむように
腰が振れられている。
「嘘つきですね。君はこんななのに…」
その一言を告げた途端だった。
悠季は僕に任せていた体を起こすと、僕をソファに座らせ
膝の上にまたがってしまった。
そして、次には衝撃的な言葉を涙ながらに伝えてくれた。
「君がほしい!もっと君を近くに感じ取れるように!
お願い!抱いて。君を味わえなかった時間を消すように
君を感じたい…」
二人でいるからこそ言えることの出来る言葉。
それを僕はとても嬉しく思い、悠季の感じたがっているものを
僕も共有すべく、君へ力を注いだ。
体全体で君を求め、野獣にかえり互いに互いを貪り食う。
会う事の出来なかった時間を取り戻すために抱き合い、
数時間後、僕らは温かいぬくもりの中にいた。
「悠季…体のほうは大丈夫ですか」
「ん…君を欲しかったから…」
加減の利かなかった体は悠季がいやがるほどむさぼってしまい、
少し反省した。
「明日も君と一緒だ…嬉しいよ…愛してる…」
悠季はこの言葉を最後に呟いて、キスが欲しいとつげ、
その要望にこたえたところで満足そうな笑みをこぼしながら眠りについた。
「君といられる幸せほど、幸せなことは無いんですよ…悠季」
前髪のかかったおでこに小さくキスをして
僕は最愛の人のいる喜びを感じながら眠りについた──。
素材提供:トリスの市場