蚊帳の中 by 冴木瑠荏さん

 どこぞと案内された小さな民宿。
 民宿の女将は、男で二人連れというのを何の偏見も無く部屋へと案内した。
「お部屋はこちらになります。 お風呂は露天風呂がございまして、廊下を出て左側にございます」
 若女将といった女性が、くわしく説明をしてくれる。
「そして、この季節ですと蚊帳を吊って寝るほうが気持ちが良いかと おもわれます」
「そうなんですか?」
 僕はそんなことも知らなくて、つい聞いてしまった。
  しかし、若女将はその顔を笑顔に代えて、詳しく話を聞かせてくれた。
「この時期ですと、ちょうど満月にもあたりますし、 気温は下がっても寝れるほどですから、気持ち良いですよ」
「東京の都会と比べると、ずいぶんと気温が下がってますね」
 圭が相槌を打ちながら、言葉を交わす。
「えぇ、どうぞ楽しんでくださいね。夜は7時にお持ちしますので」
「ありがとうございます」
「荷物は、こちらでよろしかったですか」
「はい」
「では、失礼致します」
 丁重な挨拶と共に去って行った若女将を見送ると パタンと閉じた音に、ふぅっと肩の力を抜いた。
「ここへ来るは疲れましたか」
 立っている横にいる美貌が後ろから抱きしめてくる。
「いいや、平気。なんだか久々にこんなところへ来たからホッとした」
「おやおや…」
 圭はくすりと笑うと、僕の項をぺろりと舐めた。
「あっ…!ま、まだ早いよっ!夕飯どうするつもりだよっ!」
「大丈夫ですよ。キスだけですから」
 ぺろりと舐めていた唇はあっという間に僕の唇を奪っていってしまう。
「う…っ…はぁ…」
 いつものように二人で交わすキス。
「ねぇ…男二人できて変な誤解されてないかな」
「まだ、そのようなことを気にしているのですか」
「だ、だって…久々のオフにいきなり旅行、しかも こんな立派な民宿だよ?男二人で連れ立ってきて 変に思われてるよ!」
「いまから露天風呂へ行きませんか?」
「ずいぶんと話をごまかすじゃないか」
「そういう意味ではありません。 君が疲れているだろうと思い、意見を求めたまでです」
「今は6時か…ご飯は7時だって言ってたし、 早めの露天風呂も気持ちがよさそうだよね。いこうか」
 その一言に圭は嬉しそうに「はい」と返事をしてくれて、 用意された浴衣を片手に、僕等は部屋を後にした。

 露天風呂へ行って見ると、のどかな情景と外気温との差でうまれた湯気のけむりが白くにごっている。
「こういうところにきたかったんだよね」
 ふうと、ため息をついてのんびりと過ごす。
 綺麗な形をみせつける圭の体。
つい、そのすがたに目をやってしまう。
「何か」
 そうやって、圭はいつも僕の目線を気にする。
「僕が惚れた君は綺麗な体をしてるとおもって」
「それは、君も同じですよ。僕が惚れたのは君なのですから。
こうやってここにいることが、いまだに信じられないぐらいですよ」
「またそんなことをいって…ひかれていったのは互いに同じだよ。
そうだろ、圭?」
 最近ではそのポーカーフェイスを崩し、まるで子供が喜ぶように
笑顔をだすようになった圭。
 それでいいとおもった。
「悠季!」
 忍び寄ってきた圭を感じながら、求めるままにキスをした。
 合わさった唇から洩れる言葉。
それは、愛した者が与える快感。
「けい…キスしてほしい…」
 誰も居ないからこそ、言える言葉。
それを圭は受け取ってくれて、僕の唇を嬲っていった。
「はぁ…」
「ゆだりそうですかね…そろそろあがりますか」
「んーそうしようか。ご飯が食べられなくなっちゃうもんね」
差し出された手を握り締めて、またキスをした。
「…キスは嬉しいけど、ほら、夜だから、早く行こうよ」
 自分から誘っているような言葉に聞こえて、ぽっと赤くなってしまった。
赤くなった顔でなにくわぬ圭の体…いや、そこをみた。
「……圭、君ってホント、欲情家だよねぇ」
「…君専用ですよ」
「バカっ!」
 ずばりいった言葉にますます顔が火照ってしまい、慌てて逃げた。
「転びますよ。悠季」
「だれのせいだよ、だれの!」
 声だけを頼りに、僕は足取りをはやめ、部屋へ戻った。

 ここって本当にいいところなんだと、思ったのは部屋へ帰るときだった。
圭は後から僕を追いながらも僕に追いつくと、すっと僕の手を握った。
「え?」
「良いでしょう。たまには」
 大きな手が僕を握りこんだ。。
このぬくもりだけでも、味わいたいとにこやかに笑った。
誰も居ないからこそできる圭との手つなぎ。
火照った体を冷ますように吹く秋風。
耳を楽しませる、自然が生み出した動物の鳴き声。
 そんな全てが僕らを包んでいる。
「ここへ連れてきてもらって良かったよ。
余りにも忙しくて、ゆっくりと感じることってなかったから」
「それは、それは」
「だから、今日はゆっくり過ごそう…ね」
 無言のまま、頷いて部屋へ戻った。

 部屋へ戻ってみれば本当にご飯が運ばれていて、
おまけに布団と蚊帳まで吊ってあった。
「本当に、蚊帳なんだ。なんか、すごいかも」
 田舎にいたときはよく蚊帳をはっていたこともあった。
その、間の前にある蚊帳をみて、昔を思い出していた。
 風がふいても、暑くて寝れない…といったような、夏らしい日々を。
「君は蚊帳なんてしらないだろ?だから、ここへきたの?」
 席について、圭のお酌を受けながら聞いてみた。
「…白状すると、君のリフレッシュも含め、ある意味僕の我侭かもしれません」
「いいよ。素敵な旅館だもん。僕は満足してるけど」
 テーブルに並べられている郷土料理を満喫し、そろそろご飯も終わりというころになって
目の前が回り出してしまった。
「悠季?顔が赤いですが…お酒を飲みすぎましたか」
「──う…ん。ちょっと、だめかも…」
 僕はどうやら、酔いつぶれたらしかった。

 次に目を覚ましたのは、酔いの覚めで体が冷えてきた頃だった。
 ぬくもりがあるのに、寒くておもわずちいさくくしゃみをした。
「おや、起きましたか。酔いは覚めましたか?」
 あたりはすっかり深夜の雰囲気だ。
「ごめん…今、何時?」
「12時を回ったところですよ」
 周りを見まわすとどうやら、蚊帳の中にある布団の中らしい。
「ここは…?布団の中?」
「えぇ、ちょうど食事が終わったのを見計らってきた女将に
蚊帳をあけてもらい、君を運びました」
「!!!」
「女将は僕達の関係を普通の男達だとおもっていますから
大丈夫ですよ。ただ…君の艶かしい姿を見られたのには
僕自身がが辛かったですが」
「ばかなことを言わないでくれよ。
胸にあるキスマークは誰がつけたものだよ!
少しは場所をわきまえて行動するべきだね」
「ほぅ…君の口からそのような言葉が出るとは、思ってもいませんでした。
では…僕としては、場所をわきまえながら君を感じたいですね」
 圭は、まるで今から僕を襲う…ええ!!!
「ちょ、ちょっと待った!酒臭いよ、だめだよ!」
「気にしないで良いですよ。君は僕だけのものですから」
 おいかぶさってきて、キスされて。
よく知り尽くした性感帯をありとあらゆる手で見つけては、僕を喘がした。
 感じ取れる快感はいつもと同じなのに、場所が違うだけでこうも感じてしまうのだろうか。
首筋、項、鎖骨と、順に下へ降りてくる圭の唇に僕は翻弄された。
「君の白い肌に咲く赤い花。
これをつけることが許されるのは僕だけですね」
 そうやって、歯の浮くような言葉をを言いながらカリッと乳首をかんだ。
「あん!」
 ぺろりと舐められて、体の芯からじわじわとあつくなっていく。
大きな手が撫でるように肌をまさぐり、圭の唇がだんだん欲しい所へ近づいていく。
「…んっ!も、もう…けい…」
 欲しいのに与えられない快感に、圭の髪をぎゅっとにぎっては優しくすいた。
そして、その時は訪れた。
「あ、あっ!んっ!くふっ…だ、だめ…」
 圭の唇の技は、忘れかけていた何かを思い出させるほどよくて!
 唇でいかせられたと思った時には、嬉しそうに圭が僕の唇を求めていた。
求められるままに舌を差し出して、青い味にちょっと恥かしくなった。
「やだな…ここって蚊帳の中なんだろ?外に丸聞こえじゃないか…」
 ぽそぽそいう言葉に、圭は笑っていた。
「人間は自然体が一番なんですよ。
ここはいいですね。君を好きなだけ感じられる。僕も、自分ではないような
そんな感じに支配されます」
 …それは、外でやりたいということか…。
「僕は外でやるのは嫌だな。自分が自分じゃなくなりそうで
人に見られて…こんな声を出している自分を知られるのが怖い。
それにね、夏は蚊が多いからもっともだね」
「それは、そうですよ。ですから、たまにはよいでしょう?
しかし…蚊ですか?」
「そっ。僕だけにたかる蚊が一匹いるから。
痛みもかゆみも無い、愛情というものを感じさせる蚊が一匹いるからね」
「悠季…」
 キスされて、絡む舌。
それを感じながら、僕も求めた。
「…圭。ほしいよ…君を感じたい」
 
 僕達はまるで男女が絡むように、愛し愛され、その夜が明るくなる頃に
眠りについた。

 人に愛される喜び。
それを存分に満喫できた、僕にとって桐ノ院 圭という存在を
改めて確認できたすばらしい一日だった。

チャットで出された宿題が元でしたが。楽しませてくれてありがとう^^
蚊になぞらえられても、圭はラブラブですから〜。悠季に言われた日には、起つだけ?

壁紙提供:トリスの市場
アイコン提供:月球戯工房