タイル君
その2
by 冴木瑠荏さん

   


二人がキスをして部屋を出ていってから数時間。
辺りは暗闇に覆われ、僕もはめこまれたまま時を過ごしていたころ…。
 玄関の扉が開く音がして、二人の会話の声、それにがさごそと なにやら音がした。
 それから、二人の階段を上る足音が近づいてきて、 あの「悠季」という名の綺麗な美貌の持ち主がシャワー室に入ってきた。
「きみは?もう一度浴びる?」
「お先にどうぞ」
「うん」
 シャワー室に続く部屋での会話のやり取りは、まったく恋人との会話と 同然のような感じだった。
「ふぅ」
 全裸の先ほどの人よりも一回りもふた回りも小さい色白な男の人が入りこみ、 シャワーのコックをひねりシャワーを浴び始めた。
「疲れたな……」
 顔は伺えないが、その言葉からしても相当に疲れているという感じがした。
 一人でシャワーを浴びている後ろから、あの男の人が入ってきて、 ふたりでシャワーを浴び始めてしまった。
 僕は目のやり場に困ってしまったが、他へ目を向けれる場所はなく、 ふたりの行為をまじまじと見せつけられてしまった。
 覆い被さるように二人が交じり合っている。
「窓がない分音は漏れませんから、存分に声を上げても大丈夫ですよ」
 攻めたてられながら、男の人は非難の声を上げた。
「や、やだよ、こんな響いちゃう中で」
 と、言うが攻める人の手はさらに声を上げさせるように攻めていき、
「聴かせてください、悠季、君の悦びのカンツォーネを」
「んうっ、うふっ、ふ、あっ、ああっつ、ああっ!ああんっ!」
 と、理性を無くした快楽に導かれる人間のように、良いだけ声を発していた。
 その声は窓のない空間に響き渡り、僕も些かふたりの行為に酔った。
「ええ、いいですよ、もっと歌って。
君が感じている悦びを、僕も受け取れるように」
 本当に愛しているからこそ、自分の姿を相手に見せる事が出きるわけで、 お互いに「愛している」と信じ合っていた二人は二人だけでしか感じる事の出来ない 場所へといくように、感じあっていた。
「いいっ、いいよ、すごくっ、あっ、そこ、そこ、クる、 キてる、来て、もっと来てっ、あはっ、あふうぅ、はあっつ、はあっ、はあっ、 あ……イ、イク、圭、圭っ、圭……っ!」
「うっ、も、限界っ」
 かがめられていた背中を抱き起こされ、感じ合うようにしていた悠季と言う人は、 何かに感じるように「ひぃっ!」とのけぞり、感じあった結果が結果として表れていた。
「あ……あ……はァん」
「たいへんすてきでしたよ、悠季……」
 と、耳元に掠れて聞こえてきた声に、
「ほんとに、外には聞こえてないだろうね」
 などと、聞いている。
……僕は、その一部始終を見てしまったわけで、
「君の艶かしい声は、僕だけが味わえる所有物です」
 と、言っているけどその声を楽しんでしまった人がここにも一人。

 僕がここで何もかもを見ていた事を知らされたら、きっとここから消えうせるであるに 違いないと思う。
 だって、余韻を浸るようにだきあった悠季という青年の甘い声に名残惜しむようにキスをしていた二人の仲が、本当にいちゃついているようにみえて、
嫉妬にかられたから。
 だからこそ、僕は言葉も言えないただの壁でいようと思う。
そして、この二人を見守る良き理解者になりえたら最高だと思う──。

 ──それからまもなくして、またこの家には人がいなくなった。
「ここへ帰ってくるのは今度は来年かな?」
 洗面台に備え付けられた鏡を見ながら朝の出かけの用意をしている。
「クリスマスでも良いとは思いますが」
「クリスマスを日本で?」
「愛の巣で過ごす事は、恋人達のすることですよ」
「ふふっ。そうだね。クリスマスに戻ってこれたら…。
それは、それでいいクリスマスがおくれそうだよ」
 ポッと赤らめた顔がうかがえるような声だった。
「考えておいてください」
「うん」
 きゅっと水道の蛇口を締める音とチュッと交わすキスの音。
「では、行きましょうか」
「うん、行こうか。
じゃ、また。 きっとここへ戻ってくるから。
 だって、ここは僕達だけが過ごす事の出きる愛の巣だもんね」
「えぇ」
 そうして、彼等は新居という名の海外に向かって戻っていった。


↑最後の部分はちょっとしたつけたしです。
タイルは何を見たか!?
まだ、子供過ぎたかしら??(苦笑)


大人になる課程もいいものです。
子供は周りの大人をみて育つもの。
タイル君は必ずや二人の影響を受けるでしょう。