感じ取れる暖かさ
 by冴木瑠荏さん
「あ、こんなところにあったんだ」
 悠季が思い出したように声を上げたのは、久々に掃除をして
みつけた偶然な産物だった。
「何が見つかったんです?」
「ん?これだよ」
 と、悠季が僕に見せたのは透明な小さなボールだった。
「これは?」
「君は知らないんだっけ?入浴剤だよ」
「は?これがですか」
「そっ」
 悠季はくすりと笑うと、なぜこんなものがここにあるのか説明してくれた。
説明によれば、まだ僕達が富士見にいた頃、バレンタインデーに
チョコの代わりに貰ったらしい。
「これを貰ってきたのですか?」
「そうだよ。君だって僕以上にもててたくさんのチョコをもらってたじゃない?」
 まぁ、そうなりますか。ですが、あれは、しょうがないものですよ。
僕としては一番に貰えるのは君だと思っていたぐらいですから。
「そうですね、ですが、こんなものはありませんでしたよ」
「気になるかい?」
 悠季が床にすわりながら、そのボールを手の中で転がす。
その透明なボールが日の光によってきらきらと煌いていた。
「えぇ、きになりますね。どんなものか」
「君って、子供だね」
「君もでしょう?」
 そうやって、僕をからかうからこそ子供なんですよ、悠季。
「ふふっ。じゃ、これがどんなものか試すために、お風呂を沸かそうか?」
「はい、僕がやりましょう」
「うん、サンキュ。こっちも掃除が終わったし、後はご飯を食べて寝るだけだからね。
ゆっくりご飯を作って、君のために尽くすよ」
「ありがとう、悠季」
「どういたしまして」
 
 悠季はそのままキッチンへ入ると、いつものように手をふるい僕達の料理を調理し出した。
あれから六年。
 エミリオ氏の元で弟子としてバイオリンを習い、僕はそれに付き合いつつ
恋と野心を天秤にかけお互いに四苦八苦していたころからずいぶんと時が過ぎ、
互いの音楽に対し、関心を寄せ合ってはこうやって添い寝をするように過ごすという時が流れた。
 今では悠季は有名なバイオリニストとなり、僕は僕なりに指揮者として活躍し
あまり時間を取ることが出来ずにいた。
 だが、そんな時間は今日はたっぷりあり…。
「圭〜?ご飯できたよ」
 テノールの甘い声音に誘われるように、湯を落としキッチンへ向かうと、
そこには短時間では作れなさそうな食事が並べられていた。
「今日は和食ですか?」
「うん、今は日本にいるし、さっき商店街に行った時におすそわけをもらったりしたしね」 
 おや?いつのまに悠季に手出しを?
「誰がです?」
「あはは、そんなむくれなくてもいいじゃないか。ニコちゃんだよ。
久々に顔出ししたら奥さんがくれたんだよ」
 なるほど、奥さんですか…。それは、納得。よしとしましょう。
「あーまさか、やきもちやいてるとか?」
「いえ」
「嘘だね」
「どうしてそんなことばかり言うんです?」
「だって、一番のやきもちは君だもの」
 悠季は、そういって温かいご飯を口に入れながら僕を細めで見つめた。
「わかってる?僕はいつだって…」
「君のものですか?」
「……そうだよ」
 ますます顔を赤らめるところはあった時と全く変わらない悠季は
今でもういういしいと思ってしまう。
「ほら…さっさか、ご飯を食べる!冷えちゃうよ」
 いいえ、冷えたりしませんよ。
君の愛がこもっているごはんですからね…。
僕は赤らめた顔をする悠季を見ながら、夕食を後にした──。

「あぅ…んっ…やぁ…」
 どれぐらいこうやって体を合わせたことがあっただろう?
今、僕が抱いている悠季は出会った頃とかわらない容姿をし、
こうやって僕が与える快楽に導かれれている。
 夕食が終わり、一息ついた頃に悠季は自ら先に風呂へ入り、
僕をあとから呼び寄せてくれた。
 バイオリニストとして育ち、成形された骨格は僕が見るいつも以上にそそられる。
「ねぇ…圭」
 そうやって、甘く誘惑する君の声と唇にも僕の意識が動かされてしまい、
深々と唇を貪った。
「…君が楽しみだろうから…」
 悠季はいつのまにか手に持っていたあのボールを湯におとし、
それを見ないようにと、僕に快楽を与えてくれた。
「イイですか?」
「う…ん…」
 たったままで感じるものは僕も同じで、いつも以上に君をいじめたくなる。
「…悠季、ここでは体が冷えます。入りましょう」
「……」
 有無を言わせずに、導いた風呂は体のラインが見える透明な水から、濁りの効いた ものへと変化していた。
「良い香りがしますね」
「檜だよ」
 体を寄せあうように入り、風呂独特の響きのある部屋に悠季の声が響く。
「檜ですか?」
「こういう入浴剤は目で楽しむのと同じように、鼻で感じてリラックス効果を生むともあるらしいよ」
 ほぅ…では、君はそのようなものにこう言ったものが加算されるとどう対応するでしょうか?
入浴剤についてしゃべている口をふさぎ、見えないところで悠季の体の一つ一つを触りこむ。
その濁った感触が悠季にはたまらなかったようで、どこを触るか分からない感触に
ピクリと反応を示した。
「目を閉じると良いですよ…そう、そして感じてください」
 まるで吹きこむように、魔女が催眠術をかけるように悠季に言い聞かせると
悠季は甘い声をだしてないた。
「あっ…はぁ…ん!け…けい!」
「なんです?」
「そんなところばかり…いや…」
「では、こちらでしょうか?」
 くりっと触りこむとさらに上ずった声を出した。
「そんなっ……意地が悪いっ……」
 快楽に導かれるのが嫌なように、うるおった瞳を僕に見せ付けて、
悠季はさらに、うずいた個所での僕の行為に体をのけぞらせ、喉で息の出来ない苦しみに
「くくっ……」という声にならない音を出した。
「…け、けい…もう、いやだ。君が来てっ!早く!」
 しがみついた背中に、うらみの傷をつくりながら、悠季は「早くほしい」と
自ら告げた。
 その一言に理性はあっというまに吹き飛んでしまい、僕は我を忘れ白い湯の中で、
その湯と同じくらい白い肌を持つ恋人を愛した。

「はぁっ…はぁ……」
 やりすぎたとも思えた恋人は胸の中で荒い息をつき、向かい合った僕をさそう目で見つめた。
「なんです?」
「君のその力には僕は及べないな。対等にいようと思うとこっちが疲れちゃうよ」
そんなに、潤った瞳で見つめているところを見ると満足をしているのですか?
「ですが、良かったのでしょう?」
「……まぁ、ね」
 それから悠季は、唇にかするキスを一つくれて、
「…眠い」 
 と、僕が指揮者である時間から開放される時のように、僕に寄りかかってきた。
「こんなところで寝ては風邪をひきます。運んで差し上げましょう」
 そういった時には、すでに夢の中で安らぎの寝息と、満足そうな寝顔を
僕に向けてくれた。

 ――悠季、これは、君の僕に対する態度の一つなのでしょうか?
僕はそんな君をとても誇りに思いますよ。

 なにもかもをさらけ出し、常に争うような意識をもつ。
それでこそ、僕の愛した悠季ですよ。

お風呂ネタのつもりで、タイルの壁紙探してきました。
以前、BBSでは二人のお風呂場のタイルになりたい人たちがいっぱいいたから。
こだわりの白い水滴も、はあとになることがあるんじゃないでしょうかね。
冴木さん、たった一つのバスオイル玉から、良くもここまで育ててくれました^^。
濁り湯は中で出しても分かりにくくていいですね。