悪戯な指 by冴木瑠荏さん
冬の季節が遠のいて、二月の下旬ともなれば
外では暖かい風が吹き、春の訪れを教えてくれる。
「う、うん…」
まだ離したくない暖かなぬくもりに包まれながら、
僕は目を開けた。
隣に居る恋人はまだ眠ったまま、目を開こうとはしない。
その瞑った美貌が朝日の光に輝いて、
いっそうきれいに映し出す。
”この美貌を持つ男が僕のもの”
そうおもうと、嬉しくなってしまう。
まだ、目を開かない恋人の胸にそっと手を置いてみる。
僕の体につけたキス痕と同じように、あちらこちらにある小さなあと。
それをたどりながらも、圭の体は規則正しい心臓の音をさせている。
こうやって、眠っている人を触るということはあまりなかったので、
もっと君を乱れさせたくて、ぺろりとなめあげた。
すると、眠っていたはずの圭は感じたのか、
「う…ん……」
と、唸り声をあげて、眉をゆがませた。
「まだ、起きちゃダメだからね」
母親が命令するように、そっと掻き分けた額にキスを施し、
先を続ける。
胸の上でする愛撫に反応し出す声を聴くという耳が楽しみ、
手で触る感触で圭を楽しむ。
圭は、いつもこんなことを僕にしているのだろうか。
ふと、そう思いもっと圭をいじめたくなり、くりくりと胸に有る
突起をいじめた。
「ふふ、君が悪いんだからね。こうやって、僕を楽しませてくれるから…」
キスをする。
ただ一つだけの行為がこんなに興味をひくものだとはおもってもみなかった。
「う…ん…悠季?」
僕のしていた愛撫で目を覚ましてしまった圭は、
いつものように僕を引き寄せようと手探りで僕を探す。
だけど、そんな手探りの中に僕を得られなかったせいか、
驚いたように飛び上がった。
「うわぁ!」
「ゆ、悠季!何をしているんです?」
「何って、それよりもそんなに飛び上がらないでくれよ。
こっちがびっくりして驚いたじゃないか!」
まさか、あんなことをしていたなんて口にしたら圭は含み笑いをして
僕に仕返しをしてくるだろう。
だから、言わないでおくんだ!
たまには、いいだろう?
「では、改めて。おはようございます、悠季」
すっかり、圭をまたいで足の上に座り込み向かい合う形になって
キスをされる。
「おはよ…けい…」
朝のキスは目覚めが良かったのか、僕がうっとりとするまで続けてくれて、
離された口が次に語ったのは、やはり僕がしていたことについてだった。
「そういえば、夢を見たのですが」
「夢?」
「えぇ。君が僕につくしてくれる夢でした。
まるで、自分が経験しているかのように思えて、嬉しかったのですが…って、悠季?」
頬が熱を持つぐらい赤くなっているだろうということが、自分自身でもわかる。
きづかないでほしい!こんな僕を…。
「…見ないでくれ。頬がほってってるのは気のせいだよ!」
「そうでもないようですよ、悠季。
もっと感じさせてほしいぐらいです」
「…圭のばかっ!知ってたんだな!」
「何をです?」
「君が寝ている間のことだよ!」
「は?」
「『は?』じゃないよ!僕が感じていることを君にも感じてもらいたいと思って、
ずっと、君を愛していたのに!」
「おや…では、あれは夢ではなかったのですね」
「へ?」
「僕が感じていたものは正夢になったというわけだ。
では、今度は僕が君にしてさしあげましょう。ほら、いらっしゃい、悠季」
頬を撫でられ、おもわず目を瞑ってしまう。
「そんな君がかわいいですよ。悠季」
両方の頬を壊れ物を取るように掬うとそのままディープなキスをくれる。
「うん…っはぁ…」
もぐりこんでくる舌は、僕の口腔を舐めまわし、僕を酔わせる。
「…んはぁ、あん…けい…」
どうにかしてほしい体には、うずきが生まれてしまっていて
それを開放できるのは、たった一人だけ。
愛撫をされ、一人の男に愛されていると感じた体は、
素直にそれに感じ、すべてがわがものだという喜びに歓喜し、
うわずった声が漏れ出す。
「はっ…ん!…くっ…け、けい…」
「そうでした、こちらもですね」
いじわるそうに、指が僕を求めて入り込む。
くりっと動かされて、声が漏れる。
シーツを握り締め、口を開かない僕をどうおもったのか、
圭はその愛撫を止めてしまった。
「どうしたんです?」
「…なに…」
「そんなに口を閉じなくても良いでしょう?
ここには誰も居ないんですよ」
「…だ、だって…いつも…はぁ…だ、だめ…」
「いつもなんです?」
「いつも…嫌だという言葉ばかりだから…あんっ、けい…」
「いつも、そういう言葉を言うから、自分が嫌になったと?」
「ちがっ…う…ん…」
嫌だとはいえない僕を圭は、巧みな指使いであえがせる。
「…僕が、嫌だとはいえないことをいいことに…
そんなことばかりしないでくれ…よ」
恨みの爪を圭の背中に立てて、もっととせがんだ。
「ふふ。そう言われると、もっと君をいじめたくなります」
耳にふきこまれる位置で告げられ、体が素直に反応する。
「おや?それを承知なのですか?」
さらに、いじわるく弄ばれて僕は圭を求める。
「はぁ…け、けい…もう、我慢できなくなっちゃう…
き、来て!早く…」
きっとこの求める姿が、娼婦に見られているに違いないだろう姿で
圭を求め、キスが欲しいと告げる。
その要望をかなえるために口付けをされ、
すでにカチカチなものを僕は受け入れ、ふぅ、と安堵のため息をついた。
「悠季…」
「ん?」
「これから先、君の「いやだ」と言う言葉はなしですよ」
「え?」
「いつまで耐えられるか、いっしょにやってみましょうか?」
にやけた含み笑いが、僕の体をさらに硬直させ、
キュッとしぼめた僕に、圭は「うっ」とうめいた。
「了承していただいたということで、開始します」
「え?嘘!あ…んっ!あ…だ、だめ…そんな…
動いたら…イ、イクって…あぁ〜〜!!!」
かくして、超絶倫男である圭とすごした悠季は
自分のしでかした過ちに気づきつつ、
安堵から来る安らか寝顔を圭に見せ付け眠りについた。
一方、見せつけられた本人は、苦笑しつつ
恋人をそっと胸に抱きしめ、春の訪れる
暖かい日差しの中眠りについた。
おわり
ゆ、指ってね。彼処よりもエッチだよね。
素材提供:月球戯工房