文字 byとうみょうさん
「ただいま」
やっと調子のかみあってきた三条さんとのコンチェルトの練習から帰ると、二十畳ほどのアトリエの片隅に畳が出現していた。畳っていっても本畳じゃなくて、半畳の畳を組み合わせるユニット式のもの。そこに高価そうな和机をおいて、着物を着た圭が背をむけていた。そっと横にまわって、ようすを窺うと例の譜読みのときの集中力で、墨を静かに摺っている。手元には長い半紙が置かれている。目は半眼、背筋をぴんと伸ばして正座しているその姿は、気品があって凛としてて血筋の良さを思わせた。
突然書道でも始めたのかい?きみって人の思考回路はぼくには理解不能だよ。それにしても、、、きみの容姿が優れているのは知っていたけどね。そんなにかっこいいのは反則だよ。
買い物袋を下げてそっとキッチンへひっこんだ。肉じゃがを作りながら、ぼくは意外というか納得のきみの和服姿を思い浮かべた。いつも洋装のきみばかり見てたけど、すごく着物姿も似合うよ。『水際立った』って感じかな。ぼくなんか着物を着ても、きっと七五三みたいにみえちゃうんだろうなぁ、、、
突然炊飯器が炊き上がりの音を鳴らしてビクッと驚いてしまった。いつのまにそんなに考え込んでたのかおかずもできあがっていた。
「圭、ご飯できたよ」
たくましい肩に手をおいて、声をかけた。いたずら心で覗きこんだ手元には、、、
「ぷっ。くーっ、あははははは」
「そんなに笑わなくてもいいでしょう」
照れをにじませた声、わざと作ったポーカーフェイスで圭が見上げてくる。
「ひ〜〜〜くっ苦しい」
腹筋を押さえながら笑いころげるぼくに呆れてる圭。やっと納まった馬鹿笑いのおかげで脱力しながら、圭にもたれかかった。
「だって、そんな難しい顔して『悠季マイラブ』なんてっ!」
復活しそうな笑いに腹筋が痙攣しそうになる。やばい。圭が落ち着けというようにぼくの背中に大きな手をあててなでおろしながら、耳元でバリトンを響かせた。
「きみがぼくの字を悪筆だというからです」
「そっ、そんな。そんな意味じゃない。独特な字だって言ったんだよ」
ぼくは一気に顔に血がのぼせるのを感じた。
「ご飯が冷めちゃうよっ」
キッチンへ逃げ出そうとしたぼくをやすやすと抱きしめて、圭はセクシーなひそめ声で囁いた。
「ええ、この続きはあとで。ぼくの精進を認めてくれるなら、きみのしり文字も堪能したいですね」
「けっ、圭〜」
しばらくぼくが立てなくなったのは言うまでもない。
筆力がなくてここで挫折してしまいました、、、すみません (とうみょうさん・談)