眠りの国の王子様 by冴木瑠荏さん

   

「悠季!そんな姿でいたら風邪をひきますよ」
 圭はその大きな体で僕のことを抱きしめると、そのまま硬直するように
ぎゅっと抱きしめた。
「な…苦しいよ!圭!」
「…ここまで、ずっと我慢をしていたのですが、どうも…
その、耐えることが出来ませんで…」
「な…っ!」
 圭はスタンバイ済みなものを、腰に当てることで僕をほしいことを告げた。
「待てないの?」
 いじわるく言ってみると、「はい」と速攻の返事。
「じゃ、風邪ひかないように僕を連れていって」
「かしこまりました。ご主人様」
「…ぷっ。圭、それは前にやめようっていたじゃないか」
「ですが、今日は君に従いますよ」
「…はいはい。じゃ、連れていって」
「では、失礼させて頂いて」
 すくっとかがんだとおもうと、そのまま横抱きに僕をかかえ、
僕よりはるかに高い身長が誇る、長い足をいかし
寒い部屋を通り抜けそのままベッドへ直行した。

 まるで欲しがる野獣のごとく、僕を貪る圭は今日もイイ男だ。
「あん…っ!け、けい…そんなぁ…」
 足と共に長い指が絡んできては、キュッと扱き、そんな手が与える快感に
体がゾワリと反応を示す。
「は、はぁっ!…け、けい…」
「悠季、悠季!」
「あん…んっ!あん!」
 内部をこすられる快感に甘い声が漏れ、さらにそんな自分の声音が
響くこの部屋は、ある種独特な雰囲気をかもし出しこのセックスをより一層
感じさせるものへと変化させる。
「ほら…悠季、君の声が響いています。いい声でしょう?」
「…んっはぁ…へ、へんなこと、言わないで…」
「ですが、きみはこうするともっと感じるでしょう?」
 中に入ったものがグリッと動いて、思わず声が出る。
「あ…はぁっ…け、けい…いいよ…もっと…んっ!」
 ほろりと流れた涙を唇で拭われ、キスを施されもっととせがむ。
「悠季…最高だ…」
「けい…!イカっ…イカせてぇ…」
「はい…」
 ふたりでしか駆け上がることの許されない快感へのぼりつめた先で
僕等はそのまま果てた。
 そうやって、意識を失った時にみた夢だった。
 
 

 いばらに覆われた先には城が建ち、そこには眠れる王子がいたという話はもう何百年も前のこと。
そんな王子を我が者にしようと訪れる輩は後をたたず、そのいばらに足を踏み入れては、
先に進めるものは一人もいませんでした。
 そこを、偶然通りかかった王子と執事は興味を抱き、いばらの道に入ることにしました。
「殿下、あんなかに入っていくつもりか?」
「えぇ。あのいばらの先には、僕のもとめていたものがいるかもしれません」
「とかいってもなぁ。おまえさんの妃はどうするよ?」
「僕は元々結婚する気などなかったのですよ。
そうですね。一層このいばらの先にいるとされる者を気に入ったらそのまま逃げましょう」
「は?ばかいってるんじゃねぇよ!どうすんだよ!財政は?おまえだって一国の王子だぞ!」
「地位も財政もなにもかも、あなたに差し上げますよ。僕は僕の愛せる者がほしいだけです」
 そのままいばらの森へ入ろうとした王子を止めようとした執事は、止めることなく
優しい言葉を掛け、「すきにしやがれって!」と、走り去った王子に言葉をかけたのでした。

 その大元である眠りの王子は、名を悠季といい、美しい顔を持つ若い青年でした。
なぜ、悠季が眠りについたか。
それは、一人の魔女がやってしまった過ちでした。
 いつものごとく、指先を器用に操りバイオリンを奏でていた悠季は、
魔女が仕向けた小細工に気づくことなくバイオリンを奏で続け、
切れた弦が指先にあたり、眠りに落ちてしまったのでした。
 そう…魔女のやったことは、バイオリンの弦が切れることで指先に傷を作り
その傷口から眠り薬が体にまわるという、恐ろしいことでした。
 ですが、魔女はすぐに目を覚ます量を配合していたので、お遊びのつもりでやったのに、
一向に目を覚まさない悠季をみて、大慌てをしてしまったのでした。
「なんてことを…!誰か、誰かに眠りを覚ましてもらわないと!」
 魔女は、器用に城をいばらで囲むと、「眠りつづける王子は口付けで目を覚ます」という
フレーズを城ごとにたらしこみ、寄って来る輩をみては、いじわるをしていたのでした。
 そんないじわるが100年もの間続き、その輩の中でひときわ目を引く王子を見つけ、
多少はいじわるをしつつも、その王子を城へと招きました。

「…君は誰です?」
「私?見てわからないの?魔女に決まってるじゃない」
「それは分かりますが、なぜこんなところに?」
「そ…それは…」
 自分のやった過ちで、悠季が眠りから覚めなくなったので監視を続けていたなどということは
いえず、
「こ…この王子を見守っていたの」
 と、嘘をつきました。
「では、この王子はどうやったら目を覚ましますか?」
「キスをすれば良いわ。キスをして王子が我が相手としたとき、目を開くわ」
「おぉ!それは、いいことですね。では、さっそく…」
「えぇ!ちょっと!」
 魔女の文句を聞かずに、王子は眠れる王子に近づき、ベッドに優しく腰を下ろして
優しくキスをしました。
「んっ……」
 眠れる王子は、寝起きにはいささかきついキス(笑)を受け、息ができなくなると、
「はぁぁ…」
 と、深々とため息をつき、やがて目を開きました。
「だぁれ…眠りを妨げるのは…」
「君を愛したものですよ…名前を聴かせてください。眠れる王子」
「…う…ん……悠季…」
「では、悠季。僕は君と結婚することに決めました。結婚してください」
 寝ぼけていた悠季は小さく頷くと、またキスが欲しいと王子にねだったのでした。
 魔女は自分の役目が終わったことに気がつくと、足音を立てずに部屋から去り
その城で、「若い二人の王子がいつまでも長い間暮らした」という噂を
自分の罪に免じて、長い間、言いふらし続けるのでした。
 もちろん、城を囲んでいたいばらは二人の間を邪魔しないためにしっかりとガードされたままで。

 余談ですが、王子と共に城を訪れていた執事は王子の地位を受けつぎ、
王子となり、城を守っていったそうです。

 ──おしまい──
 
 

 そんな夢をみたあとに目を覚ました僕はおもわずここがその城なのかと
周りを見まわした。
「…うん…悠季?」
「あ、ごめんね。起こした?」
「そろそろ起きる時間でしたから、気にしなくて結構ですよ」
「ここが二人だけの城だったらどうおもう?」
「は?」
「いやね、夢を見たんだよ。魔女の仕業で眠りについた僕を、君が起こしに来る夢」
「ほう…それで?」
「かっこよかったよ。眠ったままの僕にキスをする君の姿」
「それは、それは。君の口からそのような言葉がきけるとは」
「だからさ…眠ってしまったら、君のキスで起こしてくれよ」
「えぇ、構いませんよ。ぼくはいつだって君のことばかり見ているのですから…」
 そうやって、唇がねだりに来て朝の挨拶を堪能し、いつものように
僕等は行動をした。
 
 こうやって二人でいられる幸せこそ、あのお城で暮らす二人のようだと、
僕はその日実感した──。
 

 ende♪