<スポーツクラブ・プール横のミストサウナでの会話>by山田朋弥

 久しぶりに悠季と二人で泳ぐ。
 ふと目に付いた一角から、カップルが出てくるのを見たせいで、僕は悪戯心を押さえることが出来なくなった。
「悠季、ミストサウナ、入りませんか?少し冷えましたから」
「あ、いいよ。ジャグジーの方、混んでるしね」
 そう、僕らの苦手な若いお嬢さん方がジャグジーにはたむろっていたのだ。
 退出路の途中にあるミストサウナは、何しろ湯気で中が見えない。
 気分的に気楽な場所だと、前から狙っていたのだ。
「うわ、すごい湯気」
 僕が悠季をエスコートして中にはいったときに、悠季が驚きの声でつぶやいた。
 定期的に噴き出す蒸気が、蔓延したばかりの所だったらしい。 
 もわっと湯気の立ちこめる、ミストサウナは、思ったよりも暑くなかった。
 タイルに冷水を流して悠季を座らせ、僕も横に腰掛ける。
 じっとりとした湿気で輪郭を淡くした悠季はとても綺麗で、僕はうっとりと見つめていたのに。
 悠季は眉をひそめて鼻をひくつかせた。
「……なんか、このサウナ変な臭いしない?」
「ああ……今日のアロマはベルガモットという表示でしたが……確かに。これはベルガモットじゃないですね」
「アロマオイル消えちゃったって事?……代わりにみんなの汗かぁ?ちょっとやだなぁ」
「……栗の花の匂いにも似てますね」
「栗の花? どんなにおいだっけ」
「……君の分かるたとえで言えば……」
 僕はそこで彼の耳に口を近づけた。
「精液の臭いが似ています」 
「……なっ」
「この例えなら分かるでしょう?」
「わ、分かるとかじゃないよっ。他にも人が……」
 その時すっと立って出ていった男性は、僕らの会話がお気に召さなかったのだろうか。まあ、少なくとも悠季はそう思ったようだ。
「きっきみの声は響くのにっ。絶対聞こえてたよぅ」
 悠季にせめられながら、それでも僕はほくそえみを強め、誰もいなくなったサウナで恋人を独り占めにした。

……というのが会話だけ実話で。
 もちろんそんなお馬鹿な例えを出すのは山田ですが。
 でもって、相手は恋人じゃないですけど。
女同士でそんなこと言ってるから、男が逃げるのだな。