◇in Hotel◇(←思いつかなかったらしい・苦) by冴木瑠荏さん
圭が振るM響の指揮のアシスタントとしてなぜか僕が呼ばれ、僕は今、そのM響さん達が乗る新幹線の中に居る。
「どうしましたか?ずいぶんと不満そうですね」
僕が子の旅行に参加することになったのはもちろん圭の意思であり、音楽家として一緒に暮らしている僕のためを持ってやってくれたことだ。
僕自身も勉強と言うことで参加できて嬉しいけどなぜかそわそわしてならない。
そんな考え事をしている時にこう言われたんだ。
だから、まるで考え事を見透かされているような気がしてびっくりしてしまったんだった。
「え?なんで、不満そうに見える?」
少しはアシスタントとして役だとうと考えているのにまったく。
「多いに不満そうですよ。何か心配事でも?」
「いいや、ただね…」
同居と言うさながら、僕がここにいていいのかな…とおもったけど、それは圭の言葉で打ち消された。
「大丈夫ですよ。心配しないで良いです」
その安心しきった言葉を聞いて、僕も安心してしまったらしく、公演がある京都につく頃になって眠っていた夢から揺り動かされて目を開いた。
「ふぁぁ…良く寝た…」
誰が寝かせなかったかは言うまでもない話だけど…。
やがて、新幹線が京都駅につくとホテルに移動する事となった。
M響の人達は上のほうから用意されたホテルに泊まり、毎度ながらのホテルだからこんなもんだろう、という顔で各々が散らばっていく。
だが…M響の中でみんなの奏でる音の全てを把握しわがものにして演奏させる指揮者は違っていた。
「では、守村さん。行きましょう」
「え?どこに?でも、みんなは?」
まったくわからず疑問符を浮かべた僕に圭は、
「では、皆さん、練習場で会いましょう」と告げ
何も言わない僕を良いことに、そのまま連行してしまったんだった。
タクシーでついた先は京都駅に隣接するホテルだった。
ドアを潜り抜けると高い天井にシャンデリアがこうこうと輝いて見え、自分が場違いな場所へきたことを悟った。
「お荷物を」
という言葉を聞き、慌てて持っていたバッグを渡すと「そちらはいかがなされましょう?」とベルボーイが聞いてきた。
「すみません、これは手放せないものですから…」
大切なバイオリンが入っているバッグをベルボーイは「わかりました」とにこやかに笑うと、フロントから帰ってきた圭と僕を先導していった。
「1307」と「1308」
ベルボーイに案内され、エレベーターから下りた先にはたった2つしかないフロア。
「こちらで良いです。ありがとう」
と、荷物を引き取るとすぐさまベルボーイを下へ案内していく圭。
その案内が終わり、僕ら二人だけになったとき、すぐさま僕は圭に問い掛けた。
「…圭、これはいったい…」
「ここはホテルの最上階。いわゆるスィートルームでしょうか」
「そんなのわかってるよっ!どうしてここなのか!っていうことを聞いているんだよ!」
「そんなの決まっているではないですか!音楽家に似つかわしい場所でしょう?
これぐらい贅沢をしても許されます。さぁ、どうぞ」
ベルボーイにふんした圭は、僕の手荷物を持つと、ドアにキーを差しこみキザな仕種で僕を招き入れる。
「そう…」
僕は聞かなきゃ良かった、と思う心を胸にしまって圭の言葉に従い、部屋の奥に入っていった。
入ると二部屋続きの広い部屋。和室と洋室があり眺めは抜群だ。
「君ってどうしてこんなにお金をかけるの?」
着ていたスプリングコートを脱ぎ、ハンガーにかけながら聞いてみると、
「君以上に人を誘惑する輩に近づけさせないための措置です」
と言って、二人きりになったとたん先ほどまで持続していたポーカーフェイスを取り除き、甘く誘ってきた。
部屋のドア先で圭は僕をドアに押し付け、そのままキスを貪る。
「…ん……」
そのままキスを受け入れ、二人だけの時間を堪能する。
「…やだよ。ここじゃ…」
いつのまにか熱くなっているモノが腰を行き惑う。
「では、どこがよいですか」
そのまま腰を抱きしめて耳たぶを甘噛みし耳元に吐息を吐く。
それが妙に感じてしまって、ヤバイ!と感じてしまう。
「……」
「ここではカメラもありませんし、誰にも見られませんよ」
「…じゃ…シャワーを浴びた後が良い…」
「…はい」
圭はすんなりと手を離すと僕の身体をふわりと抱き上げた。
「わ、わぁ、何?!」
「じっとしててください、暴れたら落ちてしまいます」
「う、うん」
しっかりと首に手を回しそのたくましい腕に抱かれ僕はシャワー室へ入りこんだ。
何もわからずどうしようか考えていると僕の顔を圭が捉え、チュッとキスをしてきた。
「う…んっ……」
感じてしまっているのを悟られてはいけないとおもいながらそのキスをやり過ごすと、今度は僕のセーターをぬがしにかかった。
「ねぇ…?」
「はい」
シャワー室でただされるがままになっていた僕が尋ねると圭はその手を緩めないままに「どうしました?」という顔をした。
「そんなに待てないの?」
「恋する男は常に君がほしいんですよ」
といってさらにシャツを脱がすと「では、いってらっしゃい」と唇に触れるだけの
キスをくれて僕の背中を押した。
その日のシャワーはなんだかとても気恥ずかしいものだった。
今日はまるで抱かれるのを今か今かと待ち構えているみたいに念を押してシャワーを浴びている感じで、すごく恥かしかった。
もし…ここで圭は入ってきたらきっと愛し合うことをもっと欲しいと思って、僕を誘惑してくるんだろうけど、それもなぜか照れる。
あぁ!もう!こんなことばっかり考えてたら…圭に抱かれている時を思い出して身体が反応してるじゃないか!僕はそんなに淫乱だったのかな…。
とにかく、この場を切り抜けないといけない。
さっぱりとした顔でシャワー室から出ると圭がそなえつけのバスタオルを広げて待っていた。体に残る水滴を見つけ出しては丹念にタオルで拭い取ってくれて、いたれりつくせりだ。
僕はその圭の姿をずっとされるがままにながめていた。
何ともない姿。
細長い足と、たくましい胸を思うとやっぱり愛して良かったと思う。
「悠季?」
そうやって僕を呼ぶ声もイイ。
「君はシャワーに行かなくていいの?」
先がどうなるかわかっていたからそう聞いてみると、圭はその美貌を歪ませて笑った。
「僕は良いですよ。ほら…いらっしゃい、夜景が綺麗ですよ」
優しく手を広げて待っている。
その手に誘われるように僕は圭と共にシャワーですっきりした体にバスローブをはおり、言われるままに窓辺に立った。
「本当に綺麗だ」
眺めることの出来る夜景はほのかに光を灯し、夜景をきらめかせている。
「明日はオケだね…」
僕のいないオケで振る君。
それをおもうと、なぜか嫉妬心が生まれてくるのはなぜだろう。
僕だけが知っている君をみんなはどう思っているのだろう。
「悠季…?」
僕の隣に立ち並ぶように立つ圭が優しく声をかけて来た。
「ねぇ…僕のいないオケってどうだい?」
「何を言うんです?」
「…だって、僕がいないところで指揮を振る姿をみるってすごく嫌なんだ。僕だって君と一緒のオケで演奏をしたいのに…」
「…バカですね、君は。そうやって思ってくれてとても嬉しいのですが、僕とて同じ意見です。君のいないオケは…そうですね…寂しいです」
「寂しい?」
「はい」
圭は、緩やかな手つきで腰を撫でまわし、そのまま僕を引き寄せ耳元に告げた。
「…君と言う人がいないというのは花がなくて寂しいです。この目で君の美貌を、耳で君の演奏を…何もかも感じたいんですよ…」
「……もう…」
「ですから…その感じたいものをぜひとも、今、味わいたいのですが…だめでしょうか?」
「嫌だって言ったら?」
「嫌だとは言わせません、ですからお願いです。悠季…キスをさせてください」
「うん…」
僕はそれに正直に答え、圭にキスを与えた──。
「…っ…んっ…」
口腔を蹂躙するキスはあっというまに僕を快楽の場へと導いていく。
「あ…ん…圭、ここは…」
「キスをさせてくれると言ったのは君でしょう?それとも、こちらにほしいですか?」
やんわりと握りこまれ、身体がピクリと反応を示す。
「あ…だって…ここは…外から見える…」
この場を切り抜けようと、答えた言葉に圭は苦笑し、耳たぶを甘噛みしてさらに意地悪く言葉を続けた。
「ここは、ホテルの最上階ですよ?どうやって、覗くと言うんです。
僕はそんな君がほしい。さぁ…悠季、僕を見て」
先ほどから、痛いほどにされているボクはさらに緩やかな愛撫で反応し出した。
「あんっ…け、けい…だめだ…はぅ…」
バスローブのちょっとした隙間からその手が入りこむと、すでにたちあがっていたものをキュッと抓んだ。
「ひゃぁ…あ、あ…ま…まだ…だめ…」
必死に窓にしがみつき、その愛撫を感じようと身体が自然に動き出す。
「悠季…悠季ィ!」
まだもらっていないのに、君は僕を快楽の虜とさせる。
「あ、あ、あ!け…けい…」
きりきりと窓に爪を立て、与える獣のように腰を振り、催促した。
「もっと!…は、はぁっ!け、圭っ!来てッ!」
後ろから愛撫され、突き動かされては体が反応を返し、自分の声が自然と洩れる。
「うっ…んっ!んっ…〜〜〜け、けい…もっと、もっと…」
「悠季っ!悠季!」
「はぁん!ね、もっと!もっと、僕を呼んで!」
「えぇ、良いですよ。悠季…僕の悠季!もっと、僕を求めて歌って!」
「はぅ…ん!くっ、はぁ、はぁ、はぁ、ああっ!け、圭〜〜〜」
外でやっているように思わせた圭の愛撫により、僕は追い詰められ、その手が握りこんでいる中に快楽がもたらしたものを吐き出してしまったわけで…。
ずるりと、抜かれた感覚に体がついていかなくてその場にしゃがみそうになってしまう僕を圭は寸前の所で受けとめてくれ、先ほどのように僕を抱き上げ、無言のまま、シャワー室へ連れていってくれた。
それから圭は、そのまま、僕の残滓を処理してくれて。
指一本も動かせないような状態で、僕は圭に聞いた。
「ねぇ、圭?」
だけど、圭は無言のまま答えようとはしない。
「どうしちゃったの?嫌だった?」
僕の体を拭っていた手がその一言に止まった。
「何か言ってくれないと、困るじゃないか!何か言えよ、圭」
何も言わない無言の態度に、僕はいささか怒り気味でついそんな人を責めるような言葉使いになっちゃったけど、それを歯止めしたのは圭の優しいキスだった。
すくっと立ちあがったかとおもったら、すいっと腰に手を回し、ひきよせキスをされた。
「…んっ!」
ねろりと絡みつく舌が、ちろりとうごめき、息を絶え絶えにさせる。
「け…」
「すみませんでした。悠季。君の体を気遣わなくて」
「?」
「…疲れていたでしょう?僕が無理をさせました」
ぶっ!もしかして、僕の事を気にしてた?
「あはは。全く、とんでもない子供だね」
「といいますと?」
圭が口を聞くようになった。よし、これで良いだろう。
「君がそんな事を考えるんじゃないっていうんだよ。
確かに誘ってきたのは君だったけど、僕だって嬉しいんだからな。判れよ」
こつっと、おでこをつっついて、額を寄せ合って笑いあった。
「キスが欲しいな…」
ぽつりといった言葉に、圭は態度で示してくれて。
与えられたキスと、ベッドに運ばれた優しいぬくもりと安心感に僕は体をゆだね、眠りについた。
眠りにつこうとした途端
「…そういえば、今日はゲネプロです。君のことは、そっととしておいたほうが良いでしょう。
明日、見に来てください。僕の悠季…」
額にかかる前髪をかきわけ口付けされ、それでも、僕は幸せだと思いながら夢の中へ旅立っていった。
だって、この命に変えられないものが、そこにあるのだから。