ピアノバージョン

 それは、イタリアへ旅立つ前々日。
 僕はとりあえず無人にしてしまう愛の巣を、掃除しまくっていた。
「悠季……少し休みませんか?」
 穏やかなバリトンがそっとご機嫌伺いをしてきて、ちょっぴり笑ってしまう。
 経験不足の不器用さで僕に壊れ物の扱いを却下された美丈夫は、二階の部屋を片付けていたはずなのだけど。
 階段脇で手持ちぶさたにたたずむ長身は、何だかとっても窮屈そうに見えたんだ。
 ベッドは今夜も使うし、向こうに持っていく荷物分は転がったまま。
 残していく家具に布を掛けるのは明日の仕事。
「じゃ……この辺にしとくかな」
 シリコンで磨いていたピアノを、きゅっと一拭きして、僕はそっと磨いたばかりのピアノに寄りかかった。
「いよいよだね」
 にっこり笑いかければ、圭はホッとしたように微笑んで僕に近づいてくる。
 さっき、少し言い方がきつかったかな。
 バカラの花瓶を布にくるんで、戸棚へしまおうと持ち上げたときに、いきなり背後から抱きしめてきたんだもの、焦ってしまって。
 つい邪険な声で「放せよ!」と言ってしまったんだ。
 花瓶は無事だけど、圭は傷ついたみたいだった。
「さっきはごめん。きつい言い方して」
 瞬間圭は瞳を潤ませたように目を細めた。
「……いえ……」
 おそるおそる差し出された両手にさそわれるように、僕はそこに割って入った。
 ゆっくり、僕の腰に絡まり、ギュッと抱きしめてきた大きくて長い腕。
 息が詰まったように溜息を吐いたのは苦しかったからじゃない。
 こんな風に、僕を欲している彼が愛しくて。
 見上げてみれば、しっとりと切れ長の瞳が僕を見つめてる。
 何か言いたげな口元に、僕はそっと唇を寄せた。
(by山田)

 いつもどおりの柔らかく温かな唇。
 そのかわらなさが嬉しくて、輪郭を確かめながら啄むように口付けてみた。
 僕の腰にまわっていた圭の両腕に、ぐっと力が入ったと思ったとたん、激しく貪られる。
「う・・・・・んっ」
 のけぞったため思わずよろけた僕を抱き支えるように、圭が足を前に踏み出す。
 二、三歩下がったところで背中が硬いものに当たった。
「あ・・・ピアノが・・・・・」
「・・・・・気にしなくていいです」
 そんな! せっかく曇りひとつないほど磨き上げたんだぞ!
 僕の抗議は、キスとシャツの中に忍び込んできた掌の愛撫で声にならなかった。
「け、けいっ!・・・・あ・・ 」
 シャツを捲り上げ、露わになった乳首を舐められた。
 こうされると、もう、僕は逆らえなくなってしまうんだ・・・・・
「あ・・・・あん・・・・・け・・い・・・・」
 ぴちゃぴちゃと音を立てて、圭は僕の乳首を弄んでいる。
 片方の腕が腰から腿へと何度も往復して、僕の熱を煽る。
「だめ・・・だよ、こんな・・・・」
 でも、身体には力が入らなくなってくるし・・・・・・・
 ピアノに体重を預けているので背中が痛い。
「うっ・・・、いた!」
 思わずあげた声に圭が気づいた。
「悠季、大丈夫ですか?」
「うん、背中が当たってさ・・・・・ちょっと痛かった・・・・・」
「すみません」
 これでやめてくれるかな、と思った僕は、やっぱり甘かったんだ。
 圭はにっこりと綺麗に微笑んだ。この微笑が曲者なんだ・・・・・
「悠季、後ろを向いて」
「へ?」
「こうしてピアノに手をついて・・・・・・そう、それでいいです」
 なんて、言うままになった僕を笑ってくれ。
「け、圭?」
「ほら、ピアノにきみの顔が映っていますよ」
 瞬間に青ざめた僕の肩口で、ピアノに映った圭がまたにっこりと微笑んだ。
(byたまきさん)


 圭の奴は、背後からのしかかってきて僕の動きを封じ、ベルトとズボンのホックを外した。すでに下ろされていたジッパーのせいで、ズボンはすとんと床に落ちる。上着はたくし上げられ、下半身は下着だけという恥ずかしい姿にされて、僕は思わず黒い画面に映った僕の姿から目をそらした。
 恥ずかしい……。こんなの、恥ずかしいよ。
 嬉しそうに目を輝かして、さらに僕を裸に剥く作業を続けながら、圭はゆっくりと腰を揺すっている。
 熱くて堅いものが服越しにこすれるたび、僕の身体はそれを取り込んだときの感触を思い出してふるえてしまうんだ。
「圭……ヤダ……恥ずかしいよ」
「何故です? 僕は、こうして君の表情まで堪能できるのがとても嬉しいのですが。ほら、見てご覧なさい、今の君は……とてつもなく色っぽいですよ」
 僕は頭を振って恥ずかしい表情を見るのを拒んだ。
「ふひっ?」
 圭の手が伸びて、僕の中心を直につかんだときも、僕はぎゅっと目をつぶっていたんだ。
「ほら……君のここ、こんなに堅くなって……。恥ずかしいのも気持ちいい……でしょ?」
「う……」
 やわやわと揉まれても、ゾクゾクと背筋を走る快感を無視しようとした。
「恥ずかしいのが嬉しいなんて……ないよっ」
「……嘘ですね。身体は正直ですよ……こちらも……スタンバイOKだ……」
 クチュクチュと湿った音をさせている僕のアヌス……。圭の指にかかれば、こんなに……。ううん、最近では、キスだけでそうなってしまうときもある。
 不随意に圭の指を締め付けてしまって、僕は唇をかみしめた。
 恥ずかしい……僕の身体……こんなになってしまって……。
 こんなに、「男」を欲しがるなんて……
「や……だ……」
「悠季……?」
「こんな僕…………!」
「悠季っ?」
 君が欲しい。でも……そんな風に追いつめないで。
 オロオロと取りすがるように圭が僕を抱きしめたけど、僕は嫌々をした。
「恥ずかしいの、今日はイヤ」
 ホントは、その方が燃えるって、圭は知ってる。
 だからわざと僕を追いつめて来るんだっての、分かってるんだ。
 圭は、困ったように僕を見つめた。
「では……見えなければ大丈夫ですね?」
「へ?」
 僕の返事よりも早く、圭はバンダナを僕の目隠しに使った。
「君の……姿を僕は堪能したい。君は、僕の声と体温と感触で楽しんで下さい」
 囁きが熱く耳元に吹き込まれ、ついでのように耳たぶを噛まれた。
 不意にぐいっと身体が持ち上げられ、僕の足首に絡みついていた下着はどこかに落ちていった。
「け、圭?」
 ひやりとした感触の所に座らされ、それがピアノの上だと知る。
「君は見えない。その分全身で、僕を感じて下さい」
 くぐもった口調と同時に直接的な刺激が股間から体中に広がった。
(by山田)

「あん、圭、圭っ!んっ・あっ!」
 何も映らない視界。「見えない」という感覚は、その分体中を敏感にするらしくて・・・僕は、圭の性感を持続させようとするフェラチオに、いつも以上の快感を感じていた。
 あぁ、そんな緩やかに責めないでっ!いつものようにイかせてっ!
 言葉にならない想いを伝えるように、僕の喘ぎは無意識のうちに激しくなっていった。
 圭は、残酷な舌技を止め、僕の頬を両手で包んだ。きっと、今僕を見つめているんだろうな。
 「美しく磨かれた黒色のピアノに、君の白く輝かしい象牙の肌がよく映えています。この世のものとは思えないほどの美しさだ・・・あぁ、君を誰にも触れさせたくない。君は僕だけのものですよ、悠季。愛しています・・・・・・このまま、ピアノの上でイく君を見るのも良いのですが、僕は君と一緒にイきたい。いいですか、悠季・・・」
 甘く耳に響くバリトンで、そんなふうに聞かれたら「嫌」なんて言えるなずがないじゃないか。それに、僕もとっくに君が欲しくて欲しくて堪らない状態になってしまっているんだから・・・・・・
 「いいよ、圭。来て・・・・早く君が欲しい・・・」
 目隠しというのは、たまにはいいかもしれない。普段、圭と顔を合わせては言えない恥ずかしいことが難なく言えてしまうのだから。
 圭がピアノの上に座る気配がした。「何をするんだい?」そう尋ねる間もなく、僕は圭に抱え上げられていた。
 圭の腿に座っている状態だから・・・これって、座位!?
 「やだっ、圭っ!この格好、恥ずかしいよっ!」
 そう抗議しても、「君が上の体位で、イきたいんです」の一言で却下されてしまって、僕もそれ以上、駄々をこねられるほどの余裕なんてなくなっていて・・・
 僕はゆっくりと腰を動かし始めた。それに合わせるようなリズムで圭が突き上げてくる。
 「あっ、あっ、け・い!はぁ、んっ」
 絶え間なく声が迸ってしまう。僕の体重で繋がりが深くなっている。圭が奥深くまで満たしているのが感じられる。形も大きさも、全てがはっきりとわかる。
 それは、僕に羞恥心と確かな快感をもたらした。
 僕の動きが圭を気持ちよくして、圭の突き上げが僕の前立腺を微妙な角度で擦り立てて・・・!
 二人の動きが同調して、吐息が重なる。目の前に散るパチパチと眩しい火花は、どんどん大きくなっていく。
 あぁ、もうっ!
 真っ白な世界が僕らを包み込んだ。
 互いの名前を呼び合って、愛の言葉を交わし合う。
 そして、僕は心地よい幸福感の中に身を委ねた。

 何かが頬に触れて目を覚ました。背中に当たる感触からいって、どうやら圭は、失神した僕をソファーの上に運んでくれたらしい。
 ぼやけた視界の中に美丈夫な男が映る。
 頬に触れたのは、圭の大きな手。僕はそっと握り返した。
 「最高でした・・・君には無理をさせてしまったようですね、すみません・・・・・・」
 僕は、ニコッと微笑んだ。
 「僕も最高だったよ・・・目隠しなんて初体験だったけど、いつも以上に君を感じられて良かった・・・」
 「君が上に乗ってくれて、あんなに激しく腰を使ってくれる日が来るなんて思ってもみませんでしたよ」
 うっ・・・後から言われるとすごい恥ずかしい・・・・・・
 「それは言うなよっ!恥ずかしいなぁ、もう!」
 僕が本気で睨んでそう言うと、圭は飄々とした様子で言い放った。
 「ふふ、君は最高に綺麗でしたよ。目隠しというのは素晴らしいものですね。
君があんなに積極的になってくれる。今度は縛るなんてどうですかね?悠季」
 
 この後、僕が「調子にのるな!」と叫んだことは言うまでもない。
 (byあやかさん)

あとがき1

「あ〜ぁ、これ、どうするんだよ・・・」
 ヤってる最中は夢中で気づかなかったけど、よく考えてみると、僕らはピアノの上でヤってたわけで・・・しかも、僕は圭の手の中でイかされちゃった
わけだから、当然ピアノの上にも・・・・・・
「僕が、掃除しますよ。君のものを片付けられるのも、僕の喜びですから」
 だから、そういう恥ずかしいことを言うなってばぁ〜
 でも、ここは圭の言葉に甘えさせてもらおう。自分の出したものを拭き取るのって、なんかとても恥ずかしいから。圭にやってもらうのも恥ずかしいけど自分でやるよりは、ね。
 「じゃあ、お願いするよ。僕は・・・床でも拭こうかな」
 そして、僕らは並んで掃除を始めた。
 ところが・・・・・・
 「おやおや、こんなところにも」
 「ほう、ここにも飛んでいますね」
 「あぁ、悠季、こんなところにまで・・・君が、本当に感じてくれていたのだということがわかって、嬉しいですよ・・・」
 〜〜〜っ!!! 
 「圭〜〜〜〜〜っ!」
 くそ〜っ!日本で過ごせる残り少ない夜だけど、ベットルームでは絶対にさせないからなっ!!!
 
 結局、どうなったのかは・・・僕と圭だけの秘密。
(byあやかさん) 

あとがき2

「ふむ・・・・・」
圭がふきあげの手を休め、鍵盤を眺めてなにやら考え込んでいる。
「どうしたんだい? ひよっとして傷でもついていた?」
「いや、少し思いついたことがありまして・…」
「なに?」
スツールに座り込んだ圭の肩越しに鍵盤を覗き込んだ。
すると、待ち構えていたような圭に腕を引かれ、ぼくは彼の膝に抱っこされてしまった。
「け、圭! 何するんだ!」
「悠季、連弾ですよ、さあ、鍵盤に手を置いて」
「え?」
圭は僕にピアノを弾かせながら、自分は僕の身体を愛撫し始めた。
「ずるい・・・よ、圭・・・・あ、あん・・・」
「僕の楽器はきみですから・・…」
「そ、そんな、、、、あっ、ああっ!」
「そう、悠季、いい音色です・…手を止めないで・…」
そんなこと・・・いわれても・・・だんだん身体には力が入らなくなって、曲なんて弾いてられない…
ただ、めちゃくちゃに音を出しているだけなんだ・…
「そう、色っぽいです・・・…ほんとうに・・・・黒い鏡の中のきみは、悪魔のように魅力的だ…」
いつのまにかズボンと下着が下げられ、圭のいたずらな手は、僕の一番感じる前と後ろを同時に攻めている。
「悠季・…いいですよ・・・ああ、きみの弾く第一楽章は、<快感>ですね」
「な、なにを言って・…はあ、ああ、、、」
たまらずくねらした腰をつかまれ、ふと浮き上がったと思ったとたん、圭の灼鉄が僕を貫いた。
「うあっ!!」
その衝撃と快感に、僕は鍵盤の上に突っ伏してしまった。
不協和音が部屋中に響く。
圭の付き上げるような動きに煽られ、僕の身悶えとともにピアノは鳴り響く。
「悠季・・・・・・第二楽章は<悶絶>です・・・か?」
「はぁ、はぁ・・・・・圭、圭っ、圭っ!」
「うっ、んっ、うっ、んっ、悠季、悠季、・・・・・う!」
圭のとどめの突き上げを受け、僕も同時に放っていた。
遠ざかる意識の中で圭の呟きを聞いた気がした・・・・・・
「・・・・・第三楽章は・…・・<失神>でしょうか・・・・・・」

蛇足です〜〜〜(^^;)
あんたら、いいかげんに早く寝ないと、飛行機乗り遅れるよ〜〜〜!ってとこですね・・・(汗)
(byたまきさん)

TAZZさんリクエストで始まったピアノエッチもの。
結構ノリノリで書いていただけてラッキーです。
楽しかったですね^^。